【社長の粋き方case1】リウボウホールディングス 糸数会長

25

社長の粋き方 〜President’s career design〜

起業5年目、赤嶺謙一郎の社長業修行。
赤嶺自ら、地元・沖縄で活躍する経営者へインタビューし、
その「粋き方(いきかた)」に迫ります。

記念すべき第一回目は、株式会社リウボウホールディングスの糸数剛一会長にお話を伺いました。糸数会長から見た沖縄とは、経営とは。そして、リウボウとは。

chapter.1「今の沖縄は、面白いんですよ」

1

実利的に、面白い。

僕は「ウチナンチュ(沖縄の人)だから沖縄にいます」っていうほど沖縄愛を持っているかどうかは疑わしいですね。両親がいるからっていうのもありますけど、あくまでもこっちが「実利的に面白い」から、いるわけで。今の沖縄は、それぐらい面白いんですよ。

様々な時代を経て、そして、今。

沖縄自体にはもともと関心がなかったんですよ。

小学校の時代に、友人と「お前はいつ沖縄を出るんだ」ってう話をよくしてましたよね。あの頃は当たり前だったかもしれないけど、今考えれば「そんな志のある小学生いないだろ!」っていう(笑)  僕らの世代はほとんどが「こんな小さい島でくたばってたまるか」っていうことで大体は海外を見ていましたよね。僕は日本にも関心なかったですよ。

僕ら、復帰前の世代は、アメリカ人が圧倒的に豊かで、沖縄人はボロボロの車。それが、僕は復帰1年前に東京へ家族で行ったんですが、復帰後、久々に沖縄に遊びにきた時に、逆転してるわけですよ。

ボロボロの車に乗っているのは米軍関係者で、ふつうの車に乗ってるのが日本人で。「これ経済逆転してるぞ!」って。そういういろんな時代を経てきているので、そういう面からすると、今の沖縄は絶対面白いぞ、と。

chapter.2「僕は、面白いことしかやらないので」

13

アメリカから、沖縄へ。

僕はファミマUSAの社長をして、3年後に沖縄に。百貨店、スーパー、コンビニという小売流通全体を、いろんな経験をしている人がとっても少ないので、それを見てくれ、と。沖縄戻ってもなあ、と思ってたんですけど、違う業態も一緒に見るんだったら、小売流通革命を起こせそうだな、と。であれば戻ります、と。

ただ、やりだすと、やっぱり面白いよね。
僕は、面白いことしかやらないので。

誰もやらないことが、ワクワクする。

いざ、百貨店に来たら、あまりにもスピードがない、変化がない。それと旧態依然としたことを毎年繰り返す。この会社も僕がこっちくる直前、どんどん赤字幅が拡大してて。そのギリギリな時期に呼ばれました。

だけど、そういうギリギリ感あるじゃないですか。それがストレスになるんじゃなくて、ワクワク感に変わるタイプなわけですよ。こんなの誰も引き受けないだろうな、となると、絶対引き受けたくなる、みたいなね。

要は、誰も行かないとことか、誰もやらないこと、みたいなのが好きなんですよ。それ以外には、モチベーションが湧かない、というか。だから、かなり順調になったり、誰でもできんじゃない?となった途端に、全く違う次元に行くか、違う所に行く。そんなかんじです。

chapter.3「沖縄の生きる道は、これなんです」

6

琉球王国のしたたかさと、考え方。

「地理的優位性を生かす。」

これがリウボウの強みであり、さらに僕は「これは沖縄のどの企業もやることだ」っていつも言ってるんです。沖縄の生きる道はこれなんだ、と。

圧倒的なネットワークで、ここにものを集積すれば、いいものが集まっている。台湾で成功して、沖縄で成功したら、それを日本で紹介する。これ、昔、琉球王国がやっていたことですよね。

とにかく圧倒的に近い。日本から言ったら、沖縄はアジアにいちばん近い。アジアから言ったら、沖縄は「いちばん近い日本」。それと、冬が暖かく、世界に冠たる綺麗な海を持っているというリゾートアイランドである、と。ほとんどの条件を持っているじゃないか、ということです。

琉球王国に戻れとは言わないけど、あのしたたかさと考え方に戻りなさい、と思います。

琉球王国は、一つの「国」じゃないですか。したたかさがどこから生まれているかというと、「緊張感」から来ているんですよ。危機感があるわけです。簡単に植民地にされないように、圧倒的な海外とのネットワークと、人間関係と、それと、こっち大好き、と思わせて。うまい具合に付き合ってたわけですよね。

これこそが、「今後の沖縄」のあり方。

日本国の中で、いかにしたたかに、この優位性を生かすか。っていうのが、沖縄の最大の生きる道、だと。これは、企業も、県も、やり方は一緒だと思っているので。

…大げさに言うと、リウボウがこれからやることっていうのは「今後の沖縄のあり方」なんです。

リウボウが成功していくと、みんなが真似ていくはずなので、ぜひ真似てほしいんですよ。なぜかっていうと、あちこち同じところで競合すると、さらにまた高度化していきますから、それぞれが。

アジアのことに関しては基本的に沖縄を通してやったほうがうまくいく。そして日本国自体が、アジアとの関係を作るときに、沖縄が最大活用されるような、いわゆる「使われるようなバリューがある島」になるためには、あなた方、やんなきゃいけないこと、わかるでしょ、ということですよね。

こういったことはリウボウとしてやってるんだけど、非常にやりがいを感じるのは、「沖縄のためにやっている気概」があるので、すごくやりがいがあるんですよね。絶対成功させなきゃいけない。僕がいる間に(笑)

chapter.4「結局、人なんですよ」

14

今こそ、志ある人材を呼び戻す。

志のある人間は、本土に行くか、海外に行くか、なんですよ。でも、呼び戻すんです、今。ここ(沖縄)は、ものすごくポテンシャル高いので。

沖縄は、ちょうどアジアとの真ん中なんで、東京にいるよりぜんぜん面白い。香港だって、東京より早くついちゃうし、台湾に1時間で行けるし。こないだ繋がったタイも3時間50分。ベトナム繋がったら3時間半ですし。

4時間圏内で20数億のマーケットじゃないですか。
こんな面白い場所、ないでしょ。

逆にヨーロッパから見るとタイ、台湾、沖縄は同じ時間で来れるんですよ。アジアを中心にしながらヨーロッパから観光に来させる。そういう意味ではここはものすごく面白い。

ここを、理解してほしい。志ある人に。外に出てしまっているので。やっと沖縄から出たぞ、っていうことでバリバリやってると思うんだけど戻りなさい、っていうね(笑)

わかる人を、入れる。

(社長就任後の)反応、ですか?衝突とかは、やっぱり僕はあくまでも上司だから、なかったんですけど、下手に抵抗しよう、とかも思ってなかったと思うんですよね。じゃなくて、多分、「言ってる意味がよくわかんない」ってことだと思うんですよ。何言ってるの?みたいな感じで。だから未だにスピードがすごく遅い。結論から言うと、何が問題?…「人」です。

そうすると、「わかんない」「理解が遅い」「アクションが遅い」って言う人達をバシバシ切ってやるというのは僕はやりたくないので、じゃあもう、わかる人入れるから、見なさい、ですよ。

「すぐ言っている意味を理解し、共鳴共感して、動ける人間」を、外から、グループ内から、中途採用でとる。そうすると、人件費構造は上がりますよ。利益はどんどん落ちますよ。ただし、その先伸びるためにこれは「絶対必要だ」と。

経験がない、考え方を持てない、となると、小売業だけじゃなくてどこでも厳しいと思うんですよね。

「経験」の重要性

今はどの業界においても、いろんな違う経験をしている方が絶対強いですよ。深堀の専門だけでやっている、っていうのも、これは、それだけで生きる人ももちろんいます。

ただ、一般的な考え方で、対応力とか、能力で行くと、元々の能力は人はそんなに違わなくて、どこで仕事力が圧倒的に違ってくるかというのは、視野の広がりと、新しい想像力だったりするじゃないですか。

ものすごく想像力があるように見える人っていうのは、ものすごいいっぱい経験しているから、無意識に結びつけて新しいこと言うんですけど、これ、「経験」から来てるんですよね。

だからもう、できるだけ多くの経験を踏むこと。できたら、いろんな会社は経験した方がいい。一箇所だけでいる人よりは、これは「能力の差」ではなく「経験の差」で仕事力が全然違ってくるよ、と。

しかもそれは20代から30代の前半くらいで決まっちゃう。その間はもういろんな経験するべきでしょうね。

chapter.5「スタンス」

16

死ぬわけじゃない。

僕、フィリピンで3回ぐらい死にそうになってるんですよ。あの経験は相当生きてますよね。常にそれ以降、「死ぬわけじゃないし」なんですよ。3回殺されそうになったんですよ。銃口突きつけられて、引き金引かれそうになったりね。そんな体験、普通しないじゃないですか。

あれ以来、かなり変わりましたね。怖がりだけど、何でもだいたい「死ぬわけじゃないし」、って。だからそういう意味では、怖さは全くないですね。何なんだろ、この危機感のなさ。危機感ないのはやばいんだけど、ワクワク感の方が上回っちゃって。ただし根拠は固めますよ。失敗したら会社終わり、っていうのはやらないです。

自分をさらけ出すこと。

僕はコミュニケーション能力が高いわけではないんですけど、コツと言うと、自分をさらけ出す。すると、相手もさらけ出すんですよね。そこから、あと、本音の話をする。それが大事。

常に本音。こんな感じですよ、常にずーっと。時々あの、当然怒ることもありますけど、あんまりしつこくないよ(笑)

chapter.6「僕は、全く新しいことを言ってないです」

12

「琉球貿易」への原点回帰

今やビジネスで、グローバルは「マスト」なんですよ。ただし、じっくり国際人を育てるためにここで3年5年研修しますという余裕はない。だからOJTで。OJTは出来上がっているわけではなくて、失敗もします。そうしながら、どんどんどんどん経験を踏みなさい、と。僕の経験上は、それが一番「近い」と思ってるんですよ。

国際経験がある人も、全くない人も含めて、台湾行きなさい、イタリア行きなさい、イギリス行きなさい、で、どんどん飛ばしてるんですね。目的をはっきりさせて。

元々は琉球貿易の人間なので。まさに「琉貿」に戻りなさい、と。昔の人たちは、米軍機に乗って仕入れしに行ってたんですね。だから前は、ほとんど海外に出て仕入れしてたんですよ。

リウボウは舶来品のリウボウ、って言われてたんです。つまり世界中から仕入れてた。僕の小さい頃は、リウボウ百貨店は一番キラキラしている印象があったんですよ。だから僕のやってることは、新しいステージに挑んでいるように見えて、実は、原点回帰なんですね。僕は全く新しいことを言ってないんです。

まず「リウボウにしかない」モノを揃える。日本のトレンド、沖縄のもの、海外の最先端のもの、すごくいいもの。だから観光に来たら必ずリウボウに行って、いいものを買う。だけど基本的にお客さんが感じるのは「ここは別物ですね」というような館(やかた)に持ってく。

そのためには世界中に、日本中に、圧倒的なネットワークを作る。足で稼ぎなさい、と。これから。だから、大手が持っていないネットワークを全部持ちなさい、と。常に動いて、毎年毎年。終わり、ということはないので。

chapter.7「リウボウは、進化しますよ」

20

モノが有り余る、今の時代に。

今、モノが売れない。いろんなものが有り余ってるんですよ。
実を言うと、今ので足りてるんです。

「情緒的価値」ってよく言うんですけど、買ってもらうには、その人の感情を「スゲー」って思わせないと、絶対ダメ。だからいま、小売流通でも、非常に重要なのは、「エンターテインメント」。これを理解できないと、商品は売れない。

とにかく、むちゃくちゃワクワクするような刺激を徹底的にあげるか、むちゃくちゃ居心地がいいとか、癒されるとか、そういった情緒が満たされるような館だったりモールであれば、人は行くわけですよね。

だから僕がこの百貨店に4年前に来た時に、「ディズニーランドみたいに変えたい」って言ったんですよ。みんな、「ハァ?」って顔してましたけどね(笑)

USJもTDLも半分以上は、飲食、物販なんですね。遊園地の事業っていうのは、利益の半分なんですよ。テンション上がってるから、あれもこれも楽しんで買っちゃう。いま、そういう時代なんですよ。

だから人の気持ちを、ワーッとこう、豊かにする。幸せ感を喚起させることが重要。それって、エンタテインメントを知らないと、成り立たない。だから、エンタテインメント業を理解しなさい、体験しなさい、と。

「とにかく入りたい!」そんな館へ。

今後、この館ももっと改革していくんですよ。その時には、モノをどんどん変えるだけはなくて、「売らないもの」にこだわる。デザイン、内装だとか、企画、五感を訴求する匂いだとか、触覚だとか、耳だとか。

「五感訴求力」ってよく言いますけど、本当にそういう「館」にしていきたいですね。

僕らが商売する取引先というのは、今までは、おんなじ物販、おんなじメーカーの人たちばっかりだったけど、それだともう、お客さん来ないです。エンタメ業から、アートテクノロジーの人たちから。その技術を持った人たちと付き合って、この売り場の中で、具現化して行く。

そうするともう、リウボウ行きたくてしょうがない、もの買わなくていいから、とにかく入りたい、と。…ただ、間違いなく、大半の人が買ったり食べたりするんです。ここで過ごしたいな。と。そこが狙いですね。

【動画メッセージ】次世代を担う若い人たちへ


若い人に、「いろんな経験をしなさい」と伝えたい。それと「将来何がしたいかわからない」ていうのが、僕からするとそれは普通だ、と。やりたいことをどんどんやって、ダメだったら 次のチャレンジすればいいんですよ。

恐れずにやりなさい。失うものは何もないでしょ、若いんだから。たくさんやって、できるだけ多くの異質なものに触れることが、すべてのことにつながってくるので。やりたいことを、たくさんやりなさい。ただし、一生懸命やりなさい。
必ず、見えてきます。

プロフィール

株式会社リウボウホールディングス
代表取締役会長 糸数剛一

1959年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、沖縄銀行入行。その後、自身で事業を興し、1988年に沖縄ファミリーマート入社、98年に取締役営業部長に就任する。
その後、開発部長兼総合企画室長、常務取締役就任、専務取締役を経て2007年から2009年にかけてファミリーマートに出向し、米ファミリーマート社の社長兼CEOに就任。その後、2010年5月に株式会社沖縄ファミリーマートの代表取締役社長。2013年5月には株式会社リウボウホールディングス代表取締役社長、2016年5月には同社代表取締役会長に就任。


ハブリッド
ハブリッド
2013年に設立。 できること:Webサイト制作、リスティング広告、SNS広告、SNS運用、執筆、企画、動画制作 できないこと:手を抜くこと。うそ。いやほんと。それくらいの気持ち。